その緑は、汚れじゃない。――草津温泉の湯畑に生きる温泉藻「イデユコゴメ」とは?

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管理人の湯めぐりウサギです。

湯口のまわりが、深い緑に染まっている温泉があります。「汚れているのでは」と眉をひそめる人も、いるかもしれません。でも私は、あの緑を見るたびに、こう思ってきました——この湯は、生きものが元気に育つほど豊かなのかもしれない、と。

今日は、その「湯口の緑」をきっかけに知った、小さな生きものの話です。名前を、イデユコゴメといいます。

※筆者は当該クラウドファンディングの支援者です。

湯口の緑を、どう見るか

とある温泉で、湯口のまわりが深い緑色になっているのを見かけたことがあります。一度ではなく、旅先で何度か。正直に言えば、そのとき心に浮かんだのは「気持ち悪い」ではなく、「ミネラルが多い良質な温泉だから、藻類も元気なのかな」という感想でした。

先に断っておくと、あのとき見た緑の正体が何だったのか、私には分かりません。この記事でも「あれはイデユコゴメだった」と断定するつもりはありません。ただ、あの緑をきっかけに、「温泉に生きるもの」への興味が、私の中に静かに残り続けていたのだと思います。

クラウドファンディングでの、思いがけない出会い

先日、クラウドファンディングのサイトで温泉に関する事業を眺めていたとき、あるプロジェクトに目が留まりました。草津温泉の湯畑や西の河原で見られる緑の藻——温泉藻「イデユコゴメ」——のエキスを配合した製品づくりに挑む、というものです。

読み進めて、心が動いた理由は三つありました。

ひとつ。温泉と切っても切れない関係にある生きものに、さまざまな活用の可能性があると知ったこと。

ふたつ。それが健康分野への応用を目指す取り組みであること。

みっつ。東京大学発のスタートアップと、草津温泉の旅館の女将さんたちでつくる「湯の華会」が連携した、地域ぐるみの挑戦であること。

研究の世界から生まれた技術と、湯を守り続けてきた地域の人たち。その組み合わせに、勝手ながら「架け橋」を感じてしまったのです。

気づけば私は、このプロジェクトに個人として、ささやかながら支援をしていました。誤解のないように書いておくと、事業者さんからの依頼や報酬は一切ありませんし、この記事は商品の購入やプロジェクトへの支援をおすすめするものでもありません(立場の開示は記事末尾にまとめています)。一人の温泉好きが「気になって、調べて、応援したくなった」——ただ、それだけの記録です。

イデユコゴメとは何者か

項目 内容
分類 紅藻類(イデユコゴメ綱)
生息環境 強酸性温泉
pH 約1〜3
温度 35〜55℃
代表的生息地 草津温泉
特徴 鮮やかな緑色の群落を形成

では、イデユコゴメとはいったい何者なのでしょうか。調べて分かった範囲で、面白かったところを書き留めておきます。

漢字で書くと「出湯小米」。 出湯(いでゆ)とは、温泉のこと。温泉に生きる、小さな米粒のような存在——名前からして、もう温泉の生きものです。

草津の「あの緑」の正体とされています。 草津温泉の湯畑や西の河原を歩くと、湯の流れに沿って鮮やかな緑が広がっていると聞きますが、あの緑の正体がイデユコゴメだと紹介されています。世界各地の高温・強酸性の温泉に生息する、単細胞の原始的な紅藻の仲間で、草津温泉は、イデユコゴメ類の国内有数の生育地として知られています。ちなみにこの解説の出どころのひとつは、国土交通省関係の「品木ダム水質管理所」のサイト。草津の強酸性の水を中和する施設が、湯に生きる藻のことも紹介している——この距離感が、なんだかいいなと思います。

紅藻なのに、緑。 分類の上では「紅藻(こうそう)」、つまり”紅い藻”の仲間とされているのに、目に映るのは鮮やかな緑。名前と見た目が食い違っているのが、まず面白いところです。

強酸性温泉で生きられるイデユコゴメ

イデユコゴメはとんでもない場所に住んでいます。 イデユコゴメの仲間はpH1〜3の強酸性、35〜55℃という環境で育つとされます。草津の湯はpH2前後の強酸性。ほとんどの生きものが生きていけない場所で、この小さな藻は静かに緑を広げているわけです。

実は、基礎科学の最前線にいました。 イデユコゴメの仲間は、現在の紅藻の中で最も早くに枝分かれしたグループと考えられていて、現在確認されている種数は多くありませんが、近年の研究では未記載種の存在も示唆されています。環境DNAの調査からは、まだ知られていない多様性が眠っている可能性も示されています。そして仲間の「シゾン」という藻は、2004年、日本の研究グループによって真核藻類として初めてゲノムが解読され、科学誌Natureに報告されました。のちに、Cyanidioschyzon merolaeは真核生物として初めて完全な核ゲノム配列が解読された生物の一つとなっています。温泉街の湯の流れに揺れる緑の親戚が、世界の研究室で「モデル生物」として活躍していた——そう思うと、湯畑の風景が少し違って見えてきませんか。

草津温泉の緑以外にもイデユコゴメは存在するのか

草津だけの風景ではないようです。 別府・鉄輪でも、温泉まわりの堆積物が緑色になっているのはイデユコゴメだ、という紹介があります。強酸性の温泉地なら、あなたの旅先にもいるかもしれません(もっとも、緑=イデユコゴメと決めつけることはできませんが)。

「分からない」と言える事業者さん

「分からない」と言える事業者さん。 今回のプロジェクトの事業者さんの説明では、イデユコゴメはビタミンCやビタミンE、エルゴチオネインといった抗酸化成分をとされています。興味深いのは、その理由について「正確には分かっていない」と明言したうえで、過酷な生息環境が一因ではないか、と推測の形で説明していることです。また、現時点の製品に使われるエキスは、草津町の外で採取・培養されたイデユコゴメに由来する旨も、きちんと注記されています。分からないことを分からないと書く。言い切れないことを言い切らない。その姿勢に、私は好感を持ちました。

将来的には食品分野との連携や、ずっと先には医薬品や石油代替原料への応用も「視野に入れている」とのこと。もちろん、どれもまだ「視野」の段階です。それでも、これまで温泉の風景の一部だった藻に、こうした未来の可能性が語られていること自体が、温泉好きとしては嬉しいのです。

余談:中性なのに緑の湯——奥飛騨の記憶

ところで、「緑の温泉」と聞いて私が真っ先に思い出すのは、以前泊まった奥飛騨ガーデンホテル焼岳(岐阜県・奥飛騨温泉郷)の湯です。エメラルド色に輝く名物の露天風呂があり、湯口にも緑色になっている箇所がありました。

面白いのは、泉質です。こちらはナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉で、pHは7前後のほぼ中性。鉄分の多い湯でも、硫黄の湯でもありません。中性の湯であの緑は珍しいのではないか、と当時から不思議に思っていました。

イデユコゴメが棲むのは強酸性の世界ですから、環境が正反対のこの湯の緑は、おそらくイデユコゴメではないのでしょう。では、何なのか。こちらのサイトには、源泉に含まれる微生物が光合成を行うことで湯の色が変化していく、という説明があります。それがどんな微生物なのか、詳しいことは分かりませんし、私に確かめるすべもありません。

ただ、もしその説明のとおりなら——強酸の草津の緑も、中性の奥飛騨の緑も、環境はまるで違うのに、どちらも「温泉に生きるもの」の色だ、ということになります。温泉の色ひとつとっても、まだ分かっていないことがたくさんある。その「分からなさ」が、私にはとても豊かなものに見えるのです。

結び:泉質表の、外側へ

イデユコゴメについて調べていて感じたのは、情報のまだまだ少なさでした。ネットをざっと探しても出てくるものは限られていて、注目している人も今はごくわずか、という印象です。だからこそ、一人の温泉ファンとして、いま知ったことを書き残しておきたいと思いました。

温泉の泉質や環境そのものが大切なのは、言うまでもありません。でも、温泉のまわりには、湯に生きるいのちがあり、湯を守り伝えてきた文化があり、湯とともに歩む地域があります。私はこれからも、そうしたさまざまな観点から、温泉文化を応援していきたい。今回の小さな支援も、その気持ちの延長にあります。

次に湯口の緑を見かけたら、少しだけ目を凝らしてみてください。そこにいるのが何者かは、分からないかもしれません。それでも、その湯が生きている気配だけは、きっと伝わってくるはずです。

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※本記事について

  • 筆者は、本文中のクラウドファンディングプロジェクトに個人として支援を行っています(支援のリターンとして商品を受け取る予定があります)。事業者からの依頼・報酬は一切受けていません。
  • 本記事は、特定の商品・サービスの購入や、プロジェクトへの支援をおすすめするものではありません。支援や購入をご検討の際は、必ずご自身で情報をご確認のうえ、ご判断ください。
  • イデユコゴメの生態・成分などに関する記述は、下記の参考情報に基づく紹介であり、筆者が科学的に検証したものではありません。また、特定の製品の効果・効能を示すものでもありません。

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