温泉クラウドファンディングに、ファンはなぜ支援するのか|支援した3件から考える「届く企画」7つの条件

管理人の独り言

管理人の湯めぐりウサギです。

今回は趣向を変えて、温泉を営んでいる方に向けて書きます。テーマは、クラウドファンディングです。

私はこれまでに、温泉に関するクラウドファンディングへ個人として3件の支援をしてきました。金額はいずれもささやかなものですが、支援を決めたとき、あるいは見送ったとき、自分が何を見ていたのかは、わりとはっきり覚えています。

私が支援した事例と比較事例を並べてみると、集まった金額には大きな差がありました。もちろん、これだけの事例で因果関係を断定することはできません。ただ、少なくとも「お湯が良ければ支援される」という単純な話ではなく、企画の設計や伝え方が大きく関わっていることは見えてきます。

この記事は、経営のプロが書いたものではありません。私は自分でクラウドファンディングを起案したこともなければ、温泉を経営したこともない。ですが、起案する側からは見えにくい「支援する側の頭の中」については、いくらか書けることがあると思っています。

はじめに立場を明らかにしておきます。本稿で名前を挙げる3件は、いずれも私が一人の温泉好きとして支援したものです。事業者からの依頼や報酬は一切受けていません。また本稿は、特定のプロジェクトや商品への支援・購入を勧めるものではありません。


この記事の結論

  • 温泉のクラウドファンディングで差がつくのは、お湯の価値ではなく「設計」と「語り口」です。
  • 支援者が見ているのは、おおむね次の7つ。①顔と「これまで」が見えるか ②周囲が先に支えているか ③「戻す」ではなく「生まれ変わる」か ④新しさがあるか ⑤遊び心があるか ⑥明るいか ⑦そもそも気づけるか。
  • もっとも効くのは⑥です。「このままでは潰れます」より、「こうして生まれ変わります」のほうが、人はお金を出します。
  • 技術面では、目標金額の置き方が結果を大きく左右します。実例を並べると、そこがはっきり見えてきます。
  • そしてクラウドファンディングは、一度きりの資金調達ではなく、関係人口の入口だと私は考えています。

1. まず、数字を並べてみます

細かい話に入る前に、実際の数字を見ていただきたいと思います。いずれも公開情報です。

プロジェクト目標金額集まった額達成率支援者数1人あたり
古遠部温泉(青森県平川市)
2025年2〜3月
5,000万円約509万円約10%503人約1万円
子宝温泉 円空の湯(岐阜県郡上市)
2025年6〜8月
1,000万円約1,386万円約138%853人約1.6万円
温泉藻イデユコゴメの製品化(群馬県草津温泉ほか)
2026年8〜9月
50万円約150万円約300%113人約1.3万円

※円空の湯のプロジェクトには、私は支援していません。比較のために挙げています。

古遠部温泉は、503人もの支援者を集めています。1人あたりの支援額も約1万円で、他の2件と桁が違うわけではありません。集まった人の数も、一人ひとりの熱量も、決して低くはなかった。

それでも、達成率は10%でした。

理由は、算数です。目標が5,000万円で1人あたり1万円なら、5,000人の支援者が必要になります。スタート時点で、極めて高い壁を自ら設定していたことになります。

私はこのプロジェクトを当時ブログで紹介し、自分でも支援しました。

後日、支援者のもとには丁寧なお手紙が届きました。少ない人数でリターンの発送まで対応されたのだろうと思います。誠実な事業者さんです。

誤解のないように書いておきますが、私はこれを「失敗例」として扱うつもりはありません。503人が集まったという事実のほうが、はるかに重要です。共感は、たしかに成立していた。足りなかったのは共感ではなく、共感と目標額との距離でした。


2. 温泉ファンが財布を開くとき、何を見ているのか

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まず、お金を出す側の心理の話をします。技術的な設計の話は、そのあとにまとめます。

なお、この7条件は統計調査によって一般化した「成功法則」ではありません。筆者自身の支援経験と公開事例の比較から整理した、「支援者側から見た仮説」です。

条件① 顔が見える。そして「これまで」が見える

最初に見るのは、誰がやっているのかです。

これは「代表者の名前が書いてあるか」という話ではありません。知りたいのは、その人がこれまで何をしてきたのかです。

岐阜県郡上市の例が分かりやすいと思います。地域に親しまれてきた温泉施設が2024年9月に休止し、これを再生しようと地元の経営者6人が立ち上がりました。プロジェクトのタイトルは「ハードルが高すぎる田舎の温浴施設再生プロジェクトに地元のオッサンたち6人が挑む!」。6人という数が、すでに情報になっています。1人の思いつきではなく、地元の複数の事業者が本気で腹を括ったのだと伝わる。

逆に言えば、実績の蓄積がない状態でクラウドファンディングのページだけを立ち上げても、支援者からは「この人は誰なのか」が分かりません。ですから、起案を考えておられるなら、募集を始める前にやっておくことがあります。

  • 自社サイトの更新日を新しくする(何年も止まったサイトは、それだけで不安材料になります)
  • SNSでもブログでも、日々の湯守りの様子を半年でも積んでおく
  • 過去の取り組み、受けた取材、地域での活動を一か所にまとめておく

支援を検討する人は、必ず別タブで検索します。そのとき何も出てこないか、2年前で更新が止まっているかで、判断は変わります。

条件② 周囲が、先に支えている

次に見るのが、その人の周りの人たちが支持しているかです。

温泉藻イデユコゴメの製品化プロジェクトは、ここが際立っていました。草津温泉の2軒の旅館の女将さん、群馬県昭和村の村長、群馬県の観光関連団体の理事長、デザイナー、温泉の専門家。立場の異なる方々の応援メッセージが、実名で並んでいたのです。

これは支援者にとって、一種の審査通過証明として機能します。地元の人が応援しているなら、少なくとも地元で問題を起こしている事業者ではないだろう、と判断できるからです。

応援メッセージは、比較的低コストで第三者からの評価を可視化できる信用材料です。取引先、地元の同業者、商工会、自治体、常連のお客様。頭を下げて回るのは面倒ですが、効果は大きいと思います。

ちなみに、この「評価する側と評価される側の距離」という問題を徹底的に考えているのが、2026年に創設された温泉の評価制度「湯シュラン」です。施設から金銭を受け取らず、評価対象になりうる施設や利害関係のある自治体からの協賛も受け付けない、という設計をとっています。信用を守るために、あえて収入源を狭めている。

クラウドファンディングの設計思想も、根は同じだと思います。お金の流れが説明できるかどうかが、信用のほぼすべてです。

条件③ 「戻す」のではなく、「生まれ変わる」

ここが、私にとっていちばん大きな分かれ目です。

単なる現状維持や、元に戻すための修繕には、正直なところあまり心が動きません。ひどい言い方に聞こえるかもしれませんが、「今の状態を続けるための費用」はお客として払うもので、わざわざ上乗せして出すものではない、という感覚があるのです。

一方で、再生には心が動きます。

郡上の例では、休止した温泉をただ再開させるのではなく、サウナを新設し、食堂をリニューアルし、地元産品を活用する計画が示されていました。さらに、施設の収益の一部を地域の教育やイベントに還元する仕組みまで組み込まれていた。

「元通りにします」ではなく、「前よりいいものになります。しかも、その先も地域に回ります」。この差です。

この観点は、クラウドファンディングに限った話ではありません。ファンが宿の存続を支えた事例を以前調べたときにも、同じ傾向がありました。

ひとつ補足をしておきます。先ほど数字を挙げた古遠部温泉のプロジェクトも、実は単なる修繕ではありませんでした。バリアフリー化、浴室・浴槽の拡張、そして長年できなくなっていた食事提供を再開するための工事。立派に「生まれ変わる」計画です。つまり、この条件を満たしていなかったから届かなかった、という話ではありません。だからこそ私は、原因はもっと技術的なところにあったのだろうと考えています。

条件④ 新しさ。そして「思い出」には天井がある

私は、自分にとって思い出深い温泉かどうかを重視しますし、その温泉の希少性も重く見ます。源泉かけ流しの文化を守りたいという思いが、このブログの出発点でもあります。

ただ、何件か見てきて、正直に感じていることがあります。

思い出と希少性だけを訴えたプロジェクトは、うまくいっていないことが多い。

これも算数のように思えます。思い出を持っている人の数は、これまでにその温泉を訪れた人の数を超えません。希少性は「失われると困る」という理屈であって、理屈は人を少しだけ動かしますが、金額までは伸びにくい。

つまり、思い出と希少性には天井があるのです。

その天井を超えるのが、新しさです。新しさは、まだ一度も訪れたことのない人を支援者に変えられる、ほとんど唯一の要素だからです。

イデユコゴメのプロジェクトは、まさにそこでした。草津温泉の湯畑に広がる緑色の藻を、化粧品の原料として製品化する。東京大学発のスタートアップと、草津温泉の女将さんたちの会が組む。私はこの藻の存在を知りませんでしたし、草津に縁があるわけでもありませんでしたが、「そんなことができるのか」と思った時点で、もう読む手が止まらなくなっていました。

条件⑤ 遊び心。わくわくは、拡散の燃料になる

「地元のオッサンたち6人が挑む!」というタイトルを、もう一度見てください。もしこれが「温浴施設再生に伴う資金調達のお願い」だったら、中身は同じでも結果は違っていたはずです。

イデユコゴメのプロジェクトには、藻をモチーフにしたキャラクターが登場します。製品名も「いでゆこごめちゃんのお風呂」。真面目な技術開発の話に、ちゃんと笑いどころがある。

遊び心は、単に楽しいだけではありません。人に話したくなるかどうかを決めます。クラウドファンディングは支援者自身がSNSで広めてくれるかどうかで伸び方が変わりますが、人は「かわいそうな話」は拡散しにくく、「面白い話」は拡散しやすい。遊び心は、実務上の武器です。

条件⑥ 明るいこと(これが、いちばん効きます)

7つのうち、どれか1つだけ選べと言われたら、私はこれを選びます。

「このままでは潰れてしまいます。助けてください」というトーンのプロジェクトに、私はほとんど支援してきませんでした。

冷たい話に聞こえるかもしれません。でも、理由を整理すると、こういうことだと思います。

人がお金を出すのは、何かが減るのを止めるためではなく、何かが始まるのに乗るためです。前者は「損失の補填」で、後者は「未来への参加」。同じ金額でも、後者のほうが圧倒的に出しやすい。

誤解しないでいただきたいのですが、苦しい事情を隠すべきだとは思いません。むしろ、建物がどう傷んでいるのか、なぜ今なのかは、具体的に書いたほうが信用されます。

申し上げたいのは、苦境は「背景」であって「主語」ではないということです。主語は、常にこれから起きることに置く。

避けたい書き方届きやすい書き方
老朽化で限界です築50年の建物を、あと50年使える形にします
このままでは廃業ですこの湯を、次の世代に引き渡すための工事です
お客様が減ってしまいましたこれまで来たくても来られなかった方が、来られる宿にします
赤字が続いています◯◯を始めるための、最初の資金です

左右で、書かれている事実はほとんど同じです。違うのは、文の主語が「失われるもの」か「これから生まれるもの」かだけ。

支援者も、事業者も、それを見ている世間も、読んで前向きになれるかどうか。支援額は、その温度に比例するというのが、私の実感です。

条件⑦ そもそも、気づけるか

ここまでの6つをすべて満たしても、知られなければ何も起きません。

国内最大級のクラウドファンディングサイト(CAMPFIRE)では、2026年6月までに約12.4万件のプロジェクトが生まれています。そのなかで温泉のプロジェクトを偶然見つけてもらえる確率は、率直に言ってかなり低い。プラットフォームは「見つけてもらう場所」ではなく「決済する場所」だと考えたほうが現実的です。

では、どこで気づいてもらうのか。実例から挙げます。

  • 地域の経済ニュース・地方紙:古遠部温泉は、地元の経済ニュースに複数回取り上げられていました。郡上の案件は、リニューアルオープン時に地元紙が報じています。
  • 自治体の公式観光サイト・広報:郡上の案件は、市の公式観光情報サイトが募集開始時と完成前の両方で発信していました。
  • プレスリリース配信サービス:温泉旅館のクラウドファンディングが、配信サービス経由でニュースサイトに転載されている例は多くあります。
  • 地域金融機関:地方銀行がクラウドファンディング事業者と提携し、地元事業者の起案支援とプレスリリース発信まで行っている例があります。取引のある金融機関に相談する価値は十分にあります。
  • 業界メディア、温泉ブロガー、温泉系の発信者:規模は小さくとも、熱量の高い読者を持っています。

ただし、正直に書いておきたいことがあります。古遠部温泉は、報道にはむしろ恵まれていたほうです。それでも達成率は10%でした。広報さえすれば届く、という単純な話ではないということです。7つの条件は、どれか1つで成立するものではなく、噛み合って初めて動き出すのだと思います。


3. 設計の話。ここで差がつく4つの実務

ここからは、心理ではなく技術の話です。

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3-1 目標金額は、見積書ではありません

冒頭の表に戻ります。

古遠部温泉の目標額5,000万円は、おそらく「いくら集めたいか」ではなく、「工事にいくら必要か」から積み上げられた数字だったのだと思います。建物の修繕、バリアフリー化、浴室の拡張、食事提供の許可を得るための工事。すべて必要なものばかりで、削れるものではありません。その誠実さは、よく分かります。

ですが、クラウドファンディングの目標金額は見積書ではありません。支援者に向けた、達成可能性の提示です。

達成率は、ページを開いた全員に表示されます。120%と表示されているページと、8%と表示されているページでは、後から来た人の行動が変わってしまう。残念ながらこれは、お湯の質とは何の関係もない、純粋に人間心理の話です。

設計としては、こう考えるのが現実的だと思います。

  1. 第一目標は、確実に届く額に置く。 必要総額ではなく「最初の一歩に必要な額」を切り出す。イデユコゴメのプロジェクトは目標を50万円に設定し、公開6日で達成しました。その後、最終的に約150万円が集まっています。もし最初から150万円を目標にしていたら、同じ結果になったかどうかは分かりません。
  2. 足りない分は、ネクストゴールで積み上げる。 達成してから次の目標を示すほうが、未達のまま終わるより、はるかに熱が続きます。
  3. ネクストゴールは、金額以外でも置ける。 イデユコゴメのプロジェクトは、ネクストゴールに金額と並べて「支援者200人」という人数の目標を掲げ、終盤には「金額以上に支援者数を重視したい」と明言していました。輪が広がること自体を目標に据える。これは非常にうまい設計だと思いました。
  4. 全額をクラウドファンディングで賄おうとしない。 補助金、金融機関の融資、自己資金との組み合わせを前提に、そのなかでクラウドファンディングが担うべき部分を切り出す。

なお、目標未達でも集まった資金を受け取れる方式(All-in)と、未達なら全額返金される方式(All-or-Nothing)があります。工事の着工が決まっているなら前者、全額集まらないと意味がない計画なら後者、というのが基本的な考え方です。古遠部温泉のプロジェクトは前者で、達成・未達にかかわらず工事に着手する旨が明示されていました。これは誠実な姿勢だと思います。

3-2 公開後1週間の「初速」が、その後の着地を大きく左右します

CAMPFIREの2026年公表データでは、公開後1週間で目標額の30%を集めたプロジェクトは、成功確率が大幅に高まるとされています。0%のページには人が乗りにくく、勢いのあるページには人が集まるからです。

ここで必要なのは、裏技ではなく地味な営業です。

  • 公開日を決めたら、常連のお客様、取引先、地元の知人、同業者に、事前に伝えておく
  • 「公開したら初日に支援してほしい」と、はっきりお願いしておく
  • オフラインで口説いた人数が、そのまま初速になります

クラウドファンディングは「知らない人からお金が集まる仕組み」だと思われがちですが、実態は少し違います。知っている人が、知らない人に紹介してくれる仕組みです。最初の火種は、自分で用意するしかありません。

3-3 リターンで、宿の将来を切り売りしない

温泉宿のリターンは、設計が難しいと思っています。

入浴券や宿泊券は原価率が低く、一見すると出しやすい。ですがこれは、将来の客室稼働と湯量を、今、割引価格で売っていることになります。有効期限の長いパス類や枚数の多い回数券は、資金としては助かりますが、長期的には負債に近い性質を持ちます。会計・税務の扱いも含め、ここは必ず専門家にご相談ください。

私自身が「もらって嬉しかった」と感じたのは、むしろ関係が生まれるリターンでした。

  • 名前を刻んでもらえるもの(館内掲示、サイト掲載)
  • 普段は入れない場所を見られるもの(源泉、ボイラー室、改修中の現場)
  • 湯守りの仕事を体験できるもの
  • 支援者だけが呼ばれる、年に一度の集まり

これらは原価が低く、しかも将来の売上を食いません。そして何より、支援者を「お客様」から「関係者」に変えます。

金額帯の設計も重要です。イデユコゴメのプロジェクトは600円から支援できる枠を用意していました。入口が低いと人数が伸び、人数が伸びると拡散が起き、拡散が起きると金額がついてきます。一方で高額帯には、法人や事業者がPRに使える枠を明示していました。上下両方に出口があると、支援者の層が厚くなります。

3-4 終わってからが、本番です

ここを軽く見ているプロジェクトが、かなり多いと感じています。

郡上の案件は、リニューアルオープンから数か月後に「サウナの構築が遅れており、営業日も変更になる」という趣旨の活動報告を出していました。言いにくいことを、支援者にきちんと伝えている。

遅れること自体は、工事では珍しくありません。支援者が不安になるのは、遅れることではなく、何も知らされないことです。

そして肝心なのはここです。今回の支援者は、顧客ではありません。あなたの宿に関わりたいと手を挙げた人々です。ここを大事にできた宿だけが、2回目を打てます。


4. 法務・表示まわりの、ごく基本的な注意

私は法律の専門家ではありませんので、ここは「こういう論点がある」という指摘にとどめます。実際の判断は、必ず弁護士・税理士・プラットフォームの担当者にご確認ください。

  • リターンには履行義務があります。 購入型のクラウドファンディングは、支援者との間に契約関係が生じます。目標未達でも資金を受け取る方式なら、資金が足りなくてもリターンは履行しなければなりません。
  • 「日本一」「最高」などの表示には根拠が要ります。 景品表示法上、優良誤認と判断されるおそれがあります。第三者の調査やランキングを根拠にする場合は、出典・年次・調査主体を明示するのが安全です。
  • 温泉の効能表現には注意が必要です。 温泉法に基づく掲示や分析書の適応症の記載と、自由な文章で「効く」と書くことは、まったく別の話です。医薬品的な効能を標榜する表現は、薬機法上の問題になりえます。
  • 寄付型と購入型では、支援者側の税の扱いが異なります。 「寄付」という言葉を安易に使うと、誤解を生む場合があります。
  • 資金使途は具体的に、しかし確定表現は避ける。 資金使途は具体的に示し、変更の可能性がある場合は、その理由・変更範囲・支援者への告知方法をあらかじめ説明する。
  • 特定商取引法に基づく表記は、プラットフォーム側の指示に従って正確に。

地味ですが、信用を一瞬で失う種類の論点です。

なお、そもそも温泉旅館がなぜ経営的に苦しくなるのかという構造については、別途まとめています。クラウドファンディングを検討される前に、何が課題なのかを整理する材料になれば幸いです。


5. クラウドファンディングは、「関係人口」の入口である

最後に、この記事でいちばん伝えたいことを書きます。

私は以前、温泉版の「関係人口」という話を書きました。温泉ファンと温泉旅館が集まる場があって、宿が抱えている課題や手を貸してほしいことが見えるようになっていて、ファンが自然に支え手に回っていく。そういう仕組みが欲しい、という話です。

その記事を書いたときに、いちばん強く感じていた課題がこれでした。

支援したいファンは、確実にいます。でも、支援できるタイミングがほとんどない。

クラウドファンディングが募集されるのは、たいてい危機が訪れたときです。宿の側からすれば当然なのですが、ファンの側からすると、それ以外の時期には「何を手伝えばいいのか」がまったく見えません。経営、会計、デザイン、広報。持っているものを差し出したいと思っても、宿がそれを求めているのかどうかが分からない。

だからこそ、クラウドファンディングを「一度きりの資金調達」で終わらせるのは、あまりにもったいないと思うのです。募集期間中に手を挙げてくれた数百人は、あなたの宿の将来に、少額でも自分の意思で賭けた人たちです。今回の支援者名簿は「次の営業先」ではありません。あなたの宿に自ら関わろうと手を挙げてくれた人たちとの貴重な接点です。募集終了後も、活動報告やお礼などを通じて関係を育てていく価値があります。

※ただし、支援者の個人情報を次回の営業・募集など別目的で利用する場合は、プラットフォームの規約と個人情報保護法上の利用目的、必要な本人同意を確認する必要があります。

そして、評価と伴走は別の仕事だということも、改めて書いておきたいと思います。湯シュランのような格付けは「選別」です。たくさんのなかから、これは素晴らしいと指し示す。一方で関係人口は「伴走」です。指し示されなかったものの隣に立って、一緒に何かをする。どちらも必要で、どちらも相手の代わりにはなりません。

クラウドファンディングは、その伴走の入口になりうる仕組みだと、私は思っています。


おわりに

私が支援した3件を、いま並べて思い返してみます。

古遠部温泉は、事業承継で移住してこられた方が、日本有数の湯量を守ろうとしていました。イデユコゴメは、温泉に生きる小さな藻の可能性に、研究者と地域の女将さんたちが一緒に挑んでいました。湯シュランは、一度止まった温泉評価制度の歴史を踏まえたうえで、もう一度ものさしを引き直そうとしていました。

テーマも規模も、まるでばらばらです。ただ、共通していたことが一つだけあります。

読んでいて、楽しかった。

同情ではなく、期待でお金を出していたのだと思います。「この人たちと、この先を見てみたい」と思えたかどうか。結局、そこに尽きるのではないでしょうか。

もし今、クラウドファンディングを考えておられる温泉関係者の方がいらっしゃいましたら、企画書を書く前に一度だけ、自問していただきたいことがあります。

この文章を読んだ人は、湯に入りに行きたくなるだろうか。

そこが満たされていれば、数字はあとからついてくるのだと思います。少なくとも私は、そういうプロジェクトにしかお金を出してきませんでした。

そして最後に、これは書いておきたいのですが。目標に届いても届かなくても、私はその湯に入りに行きます。クラウドファンディングは、そのために使うものだと思っています。

当ブログでは、温泉に関するクラウドファンディングや、ファンに手伝ってほしいことの情報提供をお待ちしています。大した力のあるブログではありませんが、埋もれてしまうよりは、と思っています。お問い合わせからお気軽にご連絡ください。


※本記事について

  • 本稿で言及した3件のプロジェクト(古遠部温泉、イデユコゴメ、湯シュラン)には、筆者が個人として支援を行っています。事業者からの依頼・報酬は一切受けていません。子宝温泉 円空の湯のプロジェクトには支援しておらず、公開情報に基づいて比較のために取り上げています。
  • 本稿は、特定のプロジェクト・商品・サービスへの支援や購入を勧めるものではありません。
  • 掲載した支援総額・支援者数・達成率・日程は、各プロジェクトページおよび報道等の公開情報に基づく、本稿執筆時点(2026年10月)のものです。
  • 各プロジェクトが達成した/達成しなかった理由についての分析は、公表された事実ではなく、筆者個人の推測です。関係者への取材に基づくものではありません。
  • 法務・税務に関する記述は一般的な注意点の紹介であり、法的助言ではありません。実際の判断は必ず専門家にご確認ください。

参考情報

日本一お湯がドバドバ出る古遠部温泉を守りたい。 – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

ハードルが高すぎる田舎の温浴施設再生プロジェクトに地元のオッサンたち6人が挑む! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

【草津温泉から始まる新スキンケア】温泉藻イデユコゴメの魅力を届けたい! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

2026年は千年に一度のお風呂の年!温泉選びの新基準「湯シュラン」を創設したい! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

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