こんにちは!温泉ソムリエの「モガミ」です!
本サイトでは、源泉かけ流し温泉旅館の魅力を発信することで、日本各地に残る貴重な温泉文化の継承に少しでも貢献したいと考えています。
今回は少し視点を変え、温泉旅館を営む経営者や後継者の方に向けて記事を書いてみます。
近年、「インバウンドで観光は好調なのに旅館が潰れる」という話を耳にする機会が増えました。
しかし実際には、「客が来ないから潰れる」という単純な話ではありません。
むしろ問題は、お客様が来ても利益が残りにくい構造にあります。
本記事では、私なりに温泉旅館経営の構造的な課題を整理しながら、それぞれの温泉旅館が自身の立ち位置を客観的に見つめるためのきっかけを提供したいと思います。
なお、後編では「ではどう生き残るのか」をテーマに、
- 子育て世代の取り込み
- カップル需要の獲得
- 湯治需要の再評価
- 源泉かけ流しの価値再発見
を軸にした具体的な生存戦略を整理します。
※本記事は温泉ソムリエとしての活動や温泉旅館の継続的な訪問・調査・分析を通じて得た知見をもとに執筆しています。なお、旅館経営コンサルタントや公認会計士等の専門資格に基づく助言ではなく、公開情報および筆者独自の分析による考察記事です。
結論:温泉旅館の倒産は「4つの性質」が絡み合って起こる
先に結論をお伝えします。
温泉旅館経営には、他業種にはあまり見られない4つの性質があります。
- 装置産業
- 人手依存のサービス業
- 不動産業
- 地域観光業
です。
全国的には宿泊需要が回復している一方、その恩恵は温泉地によって大きく異なります。
地方の中小旅館が苦戦している背景には、この4つの性質が同時に存在していることが大きく影響していると私は考えています。
つまり、需要不足ではなく、利益が残りにくい構造そのものが問題なのです。
倒産に至る7つの主要因
① 客単価が低いまま固定費が高い
最も根本的な問題です。建物維持費・温泉設備・ボイラー・空調・給排水・客室清掃・食事提供といった固定費を抱えながら、1泊1万円台で長年営業している旅館は少なくありません。結果として「売上は増えても利益が出ない」状態、いわば利益なき繁忙に陥ります。
② 人手不足
旅館はホテルよりも人手を要する業態です。仲居・調理人・配膳・フロント・清掃と多くの職種が必要な一方、若年層は土日休み・夜勤なし・都市部勤務を志向するため、地方旅館への人材供給は細っています。非正規人材の不足率が高い状態が続いているのが現状です。
③ 建物老朽化
近年の倒産増加における最大要因のひとつです。築30〜50年の旅館が多く存在しますが、客室リニューアル・水回り更新・耐震補強・空調更新には数千万円から数億円が必要です。利益が薄いために投資できず、口コミ評価が下がり、さらに集客が悪化するという負の循環に入ります。

④ 食材・光熱費高騰
温泉揚湯・ボイラー・空調・厨房を常時動かす旅館はエネルギー消費が大きく、米・肉・魚・野菜の価格上昇も直撃します。しかし「値上げすると予約が減る」という恐れから、価格転嫁が不十分になりやすい構造があります。
⑤ 借入金依存
旅館は借金依存度の高い業態です。コロナ融資や設備投資融資の返済負担が、利益体質の弱い旅館にとって重くのしかかっています。
⑥ OTA依存
楽天グループ・リクルート・Booking.comなどのOTAは便利な一方、送客手数料が発生します。集客面での貢献は非常に大きいサービスである反面、安売り競争に巻き込まれると、OTAだけが儲かり旅館は儲からないという構造になりがちです。
⑦ 後継者不在
地方老舗旅館における隠れた大問題です。経営者が70代以上で後継者がいないケースでは、投資・採用・将来設計のいずれも行われなくなり、緩やかに体力を失っていきます。
特に危険な旅館の4タイプ
次に、特に経営が厳しいと思われる宿によくあるタイプを4つに分類してみました。
共通点は「選ばれる理由の弱さ」
共通する問題は、「宿泊する理由が弱い」ことです。
安いだけ。昔からあるだけ。立地が良いだけ。団体客が来るだけ。
これらは競争優位ではありません。
価格競争が始まれば真っ先に苦しくなります。
最も警告したい「埋没ゾーン」
私が特に危険だと思うのは、特徴のない中価格帯の宿です。
源泉かけ流しでもない。料理も普通。建物も普通。価格だけ少し安い。。。
この状態では、ファミリーにもカップルにも外国人旅行者にも湯治客にも刺さりません。
つまり、誰にも嫌われない代わりに、誰からも強く選ばれないのです。
しかし、源泉かけ流し宿にはまだ逆転の余地がある
ここまで読むと、温泉旅館経営は絶望的に見えるかもしれません。
しかし私はそうは考えていません。
むしろ、源泉かけ流し宿だからこそ持てる強みがあると思っています。
実際に本ブログで紹介している宿を見ても、高級旅館ではなくても、
家族連れに選ばれている宿、カップルに選ばれている宿、湯治客に支持されている宿は存在します。
共通するのは、「安さ」ではなく「選ばれる理由」を持っていることです。
「架け橋」の評価指数から見える今後の経営戦略
実は、本ブログで読者向けに作った評価指数は、そのまま経営診断にも応用できると考えています。
| 架け橋の指数 | 主な評価項目 | 低スコアが示す経営上の危険信号 |
|---|---|---|
| 家族で湯ったり安心度 (指数のもとになった記事はこちら) | 家族風呂・キッズ対応・離乳食対応 | 子育て世代という最大の将来市場が未着手 |
| 恋湯(こいゆ)指数 | 貸切風呂・露天風呂付き客室、プライベート感のある客室、独自料理、口コミ評価4.5以上等 | 客単価を上げる打ち手(高付加価値化・直接予約の動機づけ)が不足 |
| 湯治宿快適度指数 | 湯使い・泉質訴求・滞在の快適性 | 建物老朽化、後継者不在による投資停滞 |
このブログでは現在主に「家族で湯ったり安心度」、「恋湯(こいゆ)指数」、「湯治宿快適度指数」という3つの独自評価軸を使っておすすめ宿をご紹介していますが、これらは読者向けの発信軸であると同時に、経営者にとっての自己診断ツールとしても機能します。
- 家族で湯ったり安心度が低い宿は、家族風呂・キッズ対応・離乳食対応などが未整備であることを示します。これは後編で述べる「子育て世代の取り込み」という最重要の生存戦略がまだ手つかずであることを意味します。
- 恋湯指数が低い宿は、貸切風呂・露天風呂付き客室、個室食、独自料理、口コミでの高評価といった「高単価でも選ばれる理由」を持っていないことを示します。恋湯指数の評価項目(サービス12点・施設10点・温泉10点・グルメ13点・周辺環境5点)は、いずれも「①客単価が低いまま固定費が高い」という最大の問題を解消するための具体的な打ち手と重なっています。プライベート性と非日常感を高単価層(カップル・記念日需要)に提供できているかどうかは、価格改定(後編STEP2)が成立するかどうかの目安にもなります。
- 湯治宿快適度指数が低い宿は、湯使い・泉質訴求・滞在の快適性のいずれかが弱いことを示します。これは前述の「建物老朽化」「後継者不在」によって投資が止まっている宿に多く見られる傾向です。
つまり、読者目線でのスコアが低い宿は、経営構造としても危険信号が出ている可能性が高いということです。自社の宿を架け橋の評価軸に当てはめてみることで、ヒントが得られると考えます。
後編では、ここで整理した危険信号を踏まえ、「温泉旅館」から「温泉文化事業」への転換という視点で、具体的な生存・発展戦略と、最も余裕がない状態の旅館がどの順番で改善に着手すべきかを整理します。
本記事の作成にあたり参考にした公開情報
本記事は、筆者自身の分析・考察に加え、以下の公開情報を参考に作成しています。
- 観光庁 宿泊旅行統計調査
- 日本国内の宿泊者数、客室稼働率、旅館・ホテルの利用動向に関する公的統計。
- 観光庁 宿泊旅行統計調査(2025年年間速報値)
- 外国人宿泊者数や旅館の客室稼働率など、本記事の背景となる観光需要の状況を把握するために参照。
免責事項
本記事は温泉旅館経営に関する一般的な考察・分析を目的としており、特定の旅館・企業の経営状況を評価または断定するものではありません。
また、本記事で紹介する内容は筆者独自の見解を含み、経営改善や投資判断等の結果を保証するものではありません。実際の経営判断にあたっては、財務状況・地域特性・市場環境等を踏まえ、専門家への相談も含めて総合的にご検討ください。


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