源泉かけ流し温泉を守るのは誰か? ファンが宿の存続を支えた3つの事例研究

管理人の独り言

こんにちは、架け橋です。

今回は少し趣を変えて、「温泉ファンが宿を支えた事例」の研究記事をお届けします。

当ブログが大切にしているのは、源泉かけ流しという文化を未来へつなぐこと。そのためには「良い宿を見つけて泊まる」だけでなく、ファンと宿がもう一歩深く関わる形があってもいいのではないか——そう考えるようになりました。

本記事では、源泉かけ流し温泉や湯治文化を支えるために、温泉ファンがどのような形で宿や施設を応援してきたのかを考察します。事例として、宮城県の旅館大沼、群馬県の山木館、秋田県の金沢温泉を取り上げ、クラウドファンディングや現代湯治の取り組みから「ファンと宿の共創」の仕組みを読み解きます。

本記事の位置づけについて 本記事は、各施設の公式サイト・クラウドファンディングページ・公開インタビュー記事など、公開情報のみをもとに構成した事例研究です。施設への取材・宿泊にもとづくものではありません。詳細は記事末尾の注記・参照元をご覧ください。


事例1:旅館大沼(宮城・東鳴子温泉)——「仕組み」でファンを迎え入れる宿

鳴子温泉郷・東鳴子で120年以上続く湯治宿、旅館大沼。8つの湯殿すべてが源泉かけ流しで、離れの貸切露天「母里の湯」でも知られる老舗旅館です。

この宿が興味深いのは、五代目湯守・大沼伸治さんが提唱する「現代湯治」という考え方です。

昔ながらの長期滞在湯治を、ストレス社会を生きる現代人向けに再設計したもので、ワーケーション対応の湯治ワーク体験、産前産後の家族向け「家族湯治」、講演会や体験イベントの開催など、宿を「泊まる場所」から「関わる場所」へと広げる取り組みが続いています。

大沼さんは公開インタビューの中で、鳴子という地域を単なる観光地ではなく「居場所」として使ってほしい、疲れたら戻ってこられるピットストップのような存在でありたい、という趣旨のことを語っています。

また、同宿が加盟する「日本秘湯を守る会」のスタンプ帳制度(会員宿への宿泊スタンプが10個貯まると1泊招待)も、見逃せない仕組みです。これはファンの側に「秘湯を巡り、守る仲間である」という自覚を育てる、半世紀近く続く能動化の装置と言えます。

ここでのファンの姿: 繰り返し通い、イベントに参加し、湯治文化の担い手として宿と地域に関わる。


事例2:川原湯温泉 山木館(群馬)——危機を共有し、ファンと共に生き延びた宿

1661年創業、365年の歴史を持つ川原湯温泉の山木館。八ッ場ダム建設による温泉街の水没と移転、さらにコロナ禍という、一つの宿が背負うにはあまりに大きな危機を経験してきました。

同館は2022年秋、コロナ禍での一時閉館を経てクラウドファンディングに挑戦。目標100万円に対し、開始からわずか2日で目標を達成し、最終的に99人から272万円超(達成率272%)の支援を集めました。この資金は、江戸時代の食文化を現代に復刻した体験型食事サービス「モダンかまど」の実現など、宿の再起の大きな力となりました。

注目したいのは、15代目若旦那が宿の窮状と歴史を包み隠さず開示し、「ご縁と文化を未来へ繋げたい」という言葉で支援を呼びかけている点です。一度目の支援で宿が生き延びたという成功体験は、支援者にとって「自分の応援が宿を救った」という強烈な当事者意識を生みます。二度目の挑戦は、その関係が一過性でなかったことの証明でもあります。

ここでのファンの姿: 宿の危機を自分ごととして受け止め、資金面で存続を支え、その後も物語の続きを見守る。


事例3:金沢温泉(秋田・北秋田)——小さな温泉と「居場所」を取り戻したファンたち

三つ目は旅館ではなく、平成初期に生まれた地域の小さな公衆浴場、金沢温泉です。茶色い湯が愛される加温なし源泉かけ流しの露天風呂は、老朽化と資金難で数年前に使用中止となっていました。

「また露天風呂に入りたい」という常連や旅人の声に応え、施設は2025年夏、クラウドファンディングで露天風呂復活プロジェクトを実施。97人から85万円超の支援が集まりました。実は目標の150万円には届かなかったのですが(All-In方式のため支援金は全額活用)、既存設備の活用や工程の見直しなど工夫を重ねて露天風呂の復活工事を実現。さらにプロジェクト終了後にも追加の支援が寄せられたと活動報告で明かされています。プロジェクトが掲げたのは、「地域の人と旅人が交差する、もうひとつの居場所」という将来像でした。

大規模旅館でなくても、むしろ小さな施設だからこそ、ファン一人ひとりの支援が目に見える形で結実する——そのことを示す事例の一つと言えるでしょう。

ここでのファンの姿: 「あの湯にもう一度入りたい」という素朴な想いを、施設再生への具体的な支援に変える。

施設名(温泉地) 宿・施設側の取り組み(仕組み) ファンの姿(関わり方)
旅館大沼
(宮城・東鳴子)
・現代湯治(ワーケーション、家族湯治など)
・「日本秘湯を守る会」スタンプ帳の活用
繰り返し通い、イベントに参加する。湯治文化の担い手として能動的に関わる。
川原湯温泉 山木館
(群馬・川原湯)
・ダム移転やコロナ禍の窮状を包み隠さず開示
・クラウドファンディングによる資金調達
宿の危機を「自分ごと」として捉え、資金面で支えながら物語の続きを見守る。
金沢温泉
(秋田・北秋田)
・露天風呂復活プロジェクト(CF)
・「旅人と地域が交差する居場所」の提示
「あの湯にまた入りたい」という素朴な想いを、施設再生への具体的な支援に変える。

3つの事例に共通する構造

タイプの異なる3事例ですが、並べてみると共通する構造が見えてきます。

1. 物語と課題の開示 どの事例でも、宿・施設側が自らの歴史、想い、そして弱み(後継、老朽化、資金難)を率直に開示しています。ファンは完璧な宿ではなく、物語の続きを応援したくなる宿に動かされる、ということです。

2. 「泊まる」以外の関わりしろの設計 現代湯治のイベント、スタンプ帳、クラウドファンディングのリターン——いずれも「宿泊」の外側に、ファンが関われる入口が用意されています。応援したい気持ちは、受け皿があって初めて行動になります。

3. 支援を一過性で終わらせない関係の継続 支援後の活動報告、再訪を促す仕組み、次の挑戦の予告。関係が続くからこそ、ファンは「お客様」から「共に文化を守る仲間」へと変わっていきます。

さらに興味深いのは、3事例とも「熱心なファンが偶然集まった」のではなく、宿や施設側がファンと関わる仕組みを意識的に育てていた点です。

つまり本稿は「ファンが宿を救った話」であると同時に、「宿がファンと共に生きる仕組みをつくった話」でもあります。旅館経営の構造的な課題と生き残り戦略については、「生存戦略の設計図――源泉かけ流し旅館が10年後も残るために」で詳しく論じていますので、あわせてお読みいただくと、本稿の事例が「設計図」のどこに位置づくかが見えてくるはずです。


架け橋が考える、これからのこと

これらの事例が示すのは、温泉ファンの応援には「泊まる」「口コミを書く」以外にも、多くの選択肢がありうるということです。

そして個人的には、その先にもう一つの可能性があると考えています。温泉ファンの中には、写真、Web、語学、経理、設計といった専門スキルを持つ方が大勢います。たとえば、写真が得意なファンが宿の公式サイト用の撮影を担う。語学が堪能なファンがインバウンド向けの案内文を翻訳する。Webに強いファンが予約導線の改善を手伝う——資金の支援だけでなく、ファンのスキルが宿の課題解決に活きる形が生まれたら、源泉かけ流し文化の未来はもっと明るくなるはずです。このテーマは、今後の記事で掘り下げていく予定です。

最後に一つだけ。あなたには「この宿を支えたい」と感じた瞬間はありますか? もしあれば、その宿の名前と理由を、コメントやXでそっと教えていただけたら嬉しいです。当ブログの今後の研究テーマにさせていただきます。

それでは、良い湯めぐりを。

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注記

  • 本記事は公開情報のみをもとに構成しており、記載施設への取材・宿泊にもとづくものではありません。
  • 各施設の取り組み・料金・制度等の情報は執筆時点で確認できた公開情報にもとづきます。最新の状況は必ず各公式サイトでご確認ください。
  • 引用に類する記述は出典の趣旨を損なわない範囲で要約・再構成しています。事実誤認等がございましたら、お手数ですがお問い合わせフォームよりご連絡ください。速やかに対応いたします。
  • 本記事は特定の施設・プロジェクトへの支援を勧誘するものではありません。クラウドファンディング等への参加はご自身の判断でお願いいたします。

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